湘南ビーチFMウェブサイトに2002年の二月より二年ほど掲載された「DJ’s Recommendation」への拙文を復刻・再掲載する。これは複数によるリレー連載で、僕は六本(実はもう一本)書いている。
尚、本文中、若干の語句の訂正を行った。
これが出た時は本当に嬉しかったなあ。一曲目のイントロでやられたもんなあ。
2003年1月15日初出
Name: ザ・クルセイダーズ The Crusaders
Title: ルーラル・リニューアル Rural Renewal
Label: VideoArts Music
Number: VACM-1220
・・・ 人見欣幸 がオススメします!
ま さか二十一世紀の今になってStix Hooper スティクス・フーパーのドラム・プレイを聴けるとは思っていなかった。しかもThe Crusaders ザ・クルセイダーズとしての彼のドラミングを。
ザ・クルセイダーズ十一年振りの新作である。しかし前作発表時のメンバーは Joe Sample ジョー・サンプルと Wilton Felder ウィルトン・フェルダーのみであったので、1982年に脱退していたフーパー贔屓の僕は「二十年振りのクルセイダーズ・サウンド復活」と明記してしまおう。もう、最初の一音からシビレる(←古語にしたくない表現)、近年屈指の名盤だ。
実は数年前からこの三人が揃ってのライヴは行われていたそうだが、兎に角このメンバーでの新作がリリースされた事を喜びたい。
上記の三名を含む幼馴染み四人がグループを結成したのは ’53年だというから、今年 (2003年) で何と半世紀!! その後、一時は六人組にもなっていた彼等が、今回再集結した三人組(+サポート・メンバー&ゲスト・ヴォーカリスト)として活動していたのは ’79年から ’82年。大ヒット作『ストリート・ライフ』( ’79) や次作『ラプソディ&ブルーズ』( ’80) で人気はピークを迎える。しかし今作の音楽性はむしろその数年前=七十年代半ばのものに近い と感じた。『サザーン・コンフォート』や『スクラッチ』、『ゾーズ・サザーン・ナイツ』 (南から来た十字軍) 等の時期だ。
’80年頃のキラキラした感触ではなく、もっと泥臭く土臭い音。
スピーカーのすぐ向こうで演奏しているかの様な「近い」音像。
基本的に二管。
キャリア五十年だというのにまだこんなに良い曲が書けるのかと改めて感心してしまう粒よりの楽曲。
そして何と言っても 個性豊かなフーパーのドラムズ。
決してテクニシャンではないので、技術の優劣がとても気になる御仁には受け入れられにくいのだろうけれど、彼在ってこその、このサウンドなのだと改めて実感している。歴代の後任者である、技術力に勝る Leon ‘Ndugu’ Chancler リオン “ンドゥグ” チャンスラーや Sonny Emory ソニー・エモリー、そしてひたすらジャストなドラム・マシーン等では「クルセイダーズ・サウンド」にならなかった(断定!)ではないか。
僕は、僕の最も好むところの「ヘタウマ・グルーヴ・ドラマー」(※)— Buddy Miles バディ・マイルズ、Tony Thompson トニー・トンプスン、ジョニー吉長、Stevie Wonder スティーヴィー・ワンダー、Joey Kramerジョーイ・クレイマー、Levon Helm リーヴォン・ヘルム、Ernie Isley アーニー・アイズリー、Phil Rudd フィル・ラッド等(※2)の一人としてスティクス・フーパーを捉えている。
彼らしいドラミングが聴けただけでも充分嬉しい、という惚れ込み具合なのだ(僕の火曜夜の番組テーマ曲は彼のソロ作品だったりする!)。
プロデューサーは、正にあの七十年代中頃の彼等の作品を手掛けていたStewart Levine ステュワート・レヴィーン—何だ、道理で先程の様な感想を僕も持った訳だ。
そして参加メンバーには旧友 Arthur Adams アーサー・アダムズや Ray Parker, Jr. レイ・パーカーJr.、そしてサンプルの最近の交友関係からであろうEric Clapton エリック・クラプトンや Freddy Washington レディ “フレディ” ワシントン他の名が。彼らの笑顔も透けて見える様だ。
普通に演奏するだけで自分達にしか出せない音になり、それをその時の録音技術で普通に録れば「○○年版のザ・クルセイダーズ・サウンド」になる。
これは演奏者にとってもファンにとっても理想的な事なのではないだろうか。
今回の再結成には、結成時の残る一人、Wayne Henderson ウェイン・ヘンダスン(ヘンダーソン)( ’77年に脱退)は不参加。フェルダーはインタヴューでそれをハッキリと残念がってもいる。
勿論僕も残念ではあるが、まぁ、少年時代からの仲(特に同性の)が一度こじれると修復がとても難しいのは、それぞれ自分に置き換えてみれば何となく理解出来るだろう。損得勘定とは別の次元のネガティヴな感情がどうしてもつきまとう。しかも仕事仲間でもあったのだから尚更だろう。
S&G 然り、ザ・ビーチ・ボーイズ然り、NE 然り。
ヘンダスンが三人と合流しない(出来ない)のもそんな所に起因するのだと思う。残念だけれど。
因みにヘンダスンとフェルダーは九十年代に「The Next Crusade ザ・ネクスト・クルセイド」或いは「The Jazz Crusaders ザ・ジャズ・クルセイダーズ」の名で一緒に活動していた。とすると「ウィルトン・フェルダーって、いわゆる『良い奴』(※3)なんだろうな、きっと」なんて余計な詮索もしたりして(笑)。
補遺
(※)「ヘタウマ・グルーヴ・ドラマー」
「ヘタウマ」という語句を選んだのは間違いだったかも
知れません。下手じゃないですから。
つまりかなりクセの強い、個性的なドラマーという意味です。
誰のバックで叩いても、誰と共演しても、彼だとバレてしまう個性の強さ。
なので、他のセッションで叩けない等という事も多数。
ジョー・サンプルによると、スティクス・フーパーは「彼が叩くとクルセイダーズになってしまうから」という理由でセッション・ワークが少ないという。
(※2)
Buddy Miles バディ・マイルズ:ソロ・ワーク他、ジミ・ヘンドリクス、サンターナ等との共演でも知られる
Tony Thompson トニー・トンプスン(トンプソン):シーク(シック)他
Johnny Yoshinaga ジョニー吉長:ジョニー、ルイス&チャー(ピンク・クラウド)他
Stevie Wonder スティーヴィー・ワンダー:あのスティーヴィー・ワンダーんとこのスティーヴィー・ワンダー
Joey Karmer ジョーイ・クレイマー:エアロスミス
Levon Helm リーヴォン・ヘルム:ザ・バンド
Ernie Isley アーニー・アイズリー:ジ・アイズリー(アイズレー)・ブラザーズ(ギター&ドラムズ)
Phil Rudd フィル・ラッド:AC/DC
あと、Ohio Players オハイオ・プレイヤーズや Bootsy’s Rubber Band ブーツィーズ・ラバー・バンド、Parliament パーラメントのドラマーもかなりドタバタだけどグルーヴしています。大好き。
(※3)
いわゆる「良い奴」。
音楽的な(作曲等での)貢献よりも(それもあれど)、個性の強いメンバー間をとりもつ潤滑油的な存在をこの様に表現してみた。対ファンでは「和ませる係」になる事も多い面々だ。
例えば、
モーリース・ギブ (ビー・ジーズ)☆
ロン・ウッド (ザ・ローリング・ストーンズ)
デニー・レイン (ウィングズ)☆
スティーヴ・ゴーマン (ザ・ブラック・クロウズ)☆
ロジャー・テイラー (ジュラン・ジュラン[デュラン・デュラン])
リンゴォ・スター (ザ・ビートルズ)
アンディ・サマーズ (ザ・ポリース)
キレンジャー (ゴレンジャー、え?)
カール・ウィルスン(ウィルソン) (ザ・ビーチ・ボーイズ)☆
マイクル(マイケル)・ラザフォード (ジェネシス)
アラン・ワイト(ホワイト) (イエス)
パッと思い付くのはこんな所だろうか。事実、☆印のバンドは、その人物の脱退や死亡を受けて、解散や活動停止を余儀なくされている。
ジョー・サンプル
このアルバム発表直後、ザ・クルセイダーズは来日している。この際に、所属(配給)レコード会社の厚意により、僕はジョー・サンプルにインタヴューをする事が出来た。非常に暖かい人柄を感じた。
その模様は番組で、そして、その来日公演を収めたライヴ・アルバム発売時には「アドリブ」誌で紹介させて頂いた。
尚、本文で絶賛しまくったスティクス・フーパーはトゥアーに同行しなかった。
サンプル曰く「彼はビジネスマンになりたいんだ(笑)。スーツを着て、定時に働くというね。」と。
事実、彼はプロダクション経営で順調にビジネスマンとして成功しているのだそうだ。そう言えば全盛期のザ・クルセイダーズのマニジャーは彼の兄だった。そういう血なのだろうか。
そうならば、つまり三人の仲がこじれたという事で無いのであれば、せめて地元でのライヴやスタジオ盤だけでも良いから、又、フーパーに叩いて貰いたい。「唯一無二」だから。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’08.
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