数週遅れで今日知った。
ラッシュの初代ドラマー(デビュー盤のみ)だったジョン・ラトズィ (ラッツィ、ラトジー John Rutsey) が亡くなった。
五月十一日。心臓発作。享年五十五。
ずっと糖尿病持ちだったそうなので、その関係からの合併症とみられる。
高校の頃、横須賀に小さな輸入盤店が在った。
ウォーター・ランド。
八十年代初めから九十年頃迄やっていただろうか。当時、洋楽や日本のインディーズのファンだった三浦半島住民は御存知だろう。
僕は其処でラッシュの初期アルバムを揃えている。順番に、つまり彼が叩いていたデビュー盤から買った。
京急の汐入と横須賀中央の間に在った(ドブ板通りを中央側に出てすぐ)その店に、僕は高校に入った頃に通い始めた。店のレコード袋が格好良く、音楽ファンの学生にとって、それは「おっ、あいつウォーター・ランド行ってるぜ」と周りに知らせる為の、即ち洋楽通を自慢する為の小道具だった。タワー・レコーズ渋谷店(日本上陸第一号店)の開店と同じ頃だったと思うが、横須賀の、しかも久里浜よりも南に住む高校生にとって渋谷は遠かった。定期券の途中下車で行けるウォーター・ランド(と、その近くの国内盤レコード店ラッキー商会)はすぐに「行きつけ」になった。
狭いが、僕好みの品揃えで楽しかった。米軍基地のすぐ近くだったので外国人客も多く、ドキドキした。そして店主も話し上手な方で、しかも(当然だが)音楽に詳しく、色々と教えて頂いた。店長と客を超えた「洋楽の先輩」として慕っていた(と僕は思っていたのだけれど、果たして先方は?)。プログレが大好きで、レコード店をやってるのに、私物のバンコとかピーター・ゲイブリエルとかを普通に貸してくれたりもした。
名前は水島さん。だから店名が「Water-Land」。
高校の頃は、周りの仲間が持っていれば借りれば済む、ダブってちゃあお金が勿体無いと思っていたので、周りが持っていないものを買うという傾向が強かった(みんなそうだったでしょ?)。今思うと僕はその傾向が特に顕著で、いわゆる「王道」は周りが結構持っていたので敬遠(二十代になってイーグルズとかザ・ビートルズとかを買い始めたりしたりなんかしたりなんかして)。ザ・ローリング・ストーンズとEW&F以外は、無意識に誰も買わない様なものばかりを選んでいた気がする。それを武器に(笑)レコードのカセット・コピーを多くの友人とし合ったものだ。
ウォーター・ランドで最初に買ったのは「Original Soundtrack /10cc」。おそらく、丁度、渋谷陽一が「サウンドストリート」で10ccを特集した直後だったからだと思う。「ロック夜話」の回だったと記憶している。雑談的なものの合間に彼等の紹介が入り、特に絶賛されていたアルバムがそれだった。アルバム・カヴァーも知らない段階で、実物をいきなり手にした喜びから購入した(※)。
こういう感動的なレコードとの出会い方はネット社会ではもう無いのだろう。簡単に調べられちゃうというのは便利だけど何だか寂しい・・・。
さて、ラッシュである。
ウォーター・ランドは狭い店だったが、ラッシュのアルバムは全て揃えていた。今思えば、アメリカ人相手だったからなのだろう。北米での彼等の人気は当時から凄まじかったから(※※)。
エア・チェックで「ザ・スピリット・オヴ・レイディオ」「ライムライト」「トム・ソーヤー」といった辺りを聴いて気に入り、直後のライヴ・アルバム『Exit … Stage Left (神話大全)』(こちらも当時はエア・チェックだが)に完全にKOされていた僕は、そんな訳でラッシュも「武器の一つ」として買う決意をする。ウォーター・ランドに全部揃っているので、ちゃんと出た順に買う事にした。
’73年に自主制作され翌年マーキュリーから発売されたラッシュのファースト「Rush」は、次作以降とはかなり趣を異にする一枚だ。
本作発表後にドラマーが代わるからだ。
バンドとしてはこのメンバー交代は吉と出て、セカンドが一種の仕切り直しとなる。以降、彼等は急速な変貌・進化・成長を遂げる。最初の完成型は四枚目『2112 (西暦2112年)』だろう。以降三十年以上、彼等は不動のトリオ編成(ZZトップに次ぐ不動っぷり?)なのだから、バンド内の結束も固いし、何よりもずっと高い人気と評価を保っている。音楽性は少しずつ変化させているのだが、それを概ねファンに受け入れさせ続けているのも素晴らしい。人気は拡大するばかりなのだ。
しかし、それは三十年以上の活動をフォロウする長い話になるし、何よりラトズィ脱退後の話なので此処では書かない。
自らの名を冠したデビュー・アルバムはモロにレッド・ゼプリンとザ・フーの模倣だ。余りにもバレバレで拍手を贈りたくなる程に。
歌は野太さの足りないロバート・プラント、
ギターはストロークがピート・タウンゼントでソロがジミー・ペイジ、
ベイスはジョン・エントウィスル(とクリス・スクワイア、つまりリッケンバッカー)、
そしてジョン・ラトズィのドラムズは
少し静かめのキース・ムーンか破天荒さの足りないジョン・ボナム
といった所だろうか。
格好良いリフも多いのだが、「○○っぽい(から格好良くて当然)」という事が多く、曲そのものも独創的とはまだ言えない(以降が余りに独創的だからそう感じてしまうのかも知れないが・・・)。つまりこのデビュー作はまだ習作の域を出ていない。
でも魅力は有る。ダイヤモンドの原石的な、粗削りなものではあるけれど。
僕としては、なけなしの小遣いをはたいて買った一枚なので意地でも気に入らなければ気が済まないという思い込みも有った(笑)。かなり聴いた。
アマチュア時代のライヴ・レパートリーの傑作選なのだろうが(結成から四年後のレコーディングだ)、その熱気をスタジオ盤に込めるノウハウはまだ無かったのだろうとも思った。多分初めてのスタジオ録音だったのだろうし。
ラッシュは、後任ドラマーであるニール・パートの加入が非常に重要なので、デビュー盤はどうしても後回しにされがちなのだけれど、そして確かに稚拙とも言える楽曲であり演奏力ではあるのだけれど、足蹴には出来ない一枚だ。キャッチーという基準で
言えば最もキャッチーというか、最も曲が単純というか。兎に角とっつき易い一枚だと思う。
アルバム・カヴァーと裏ジャケの三人のダッサダサ加減も含めて(笑)、今でも愛おしい一枚である。
日本盤、今は新品では流通していない様だ・・・。邦題『閃光のラッシュ』。前述の通り、欧米ではとんでもない人気なので、輸入リマスター盤はちゃんと出ている。
という訳で高校の頃、「人見、ラッシュ持ってるぜ」が切り札の一枚だった(?)僕なのだけれど・・・。
ラトズィ氏の死に際して誠に不謹慎な締めとなってしまうが、ラッシュは、特にデビュー盤を含む最初の五・六枚は、音楽仲間の間での人気は低かったと思う。
そりゃだって、ヨコスカったって、ニッポンだからさぁ(笑)。勘弁!
ジョン・ラトズィさん、貴方は当時から糖尿病持ちで、それでラッシュを脱退したのだそうですね。でも、貴方が関わったバンドの影響も有って、僕はハード・プログレに深入りしちゃいました。責任取ってね(笑)。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’08. (音楽紹介業)
(※)リイシューのシングル・ジャケ盤だったけどね。後でオリジナルのダブル・ジャケを買い直した。でも、その内ジャケ二面は、リイシュー盤に封入されていた紙一枚と同じだった。今思えばとっても良心的なリイシューだ。
(※※)特に楽器をいじってる奴の割合がとても高い。ライヴ映像を観ると、スタジアム・クラスが満席で、その多くがエア・ギターやらエア・ドラムを演り乍ら絶叫しているのだ。笑える。南米では変拍子バリバリのインストを大合唱している! これは本当に大笑い。
コメント
SECRET: 0PASS:はじめまして。waterlandのことを、ふっと思い出して検索していたところ、こちらの記事に辿りつきました。秋谷で育った私にとっても、1982年頃からの数年、waterlandに通って、水島さん(でしたね!)のお薦めのレコードを毎月のように買い求めていました。ドブ板でビリヤードしたり、懐かしき学生時代のこと。その後は仕事などで、縁遠くなってしまいましたが、楽しい時代でした。ビーチFM、今度、拝聴してみます。ありがとうございました。 Like
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とんぼさん
おお、見付けて下さり有難う御座居ます。僕もまさにその頃、'82年に高校進学し、それ以降通った身です。まだ通り沿い、一階に店を構えていた頃が思い出深いです。King Crimson "Three of a Perfect Pair" を米盤で買おうか英盤(少し高い)で買おうか迷っていたら「マニアはイギリス盤でしょう!?」と水島さんにすかさず言われて従いましたっけ(笑)。ラッシュや10ccはあそこで揃えました。EW&F "Powerlight" 発売直前は入荷が今か今かと毎日寄って少し迷惑がられもしました。レコード屋さんに寄る、探す、店のオススメを教えて貰う…とても大切な経験でした。
番組、宜しければ是非。横須賀のFMブルー湘南でも番組をやっています。週刊紙「タウンニュース」横須賀版に月に一度コラムを寄せてもおります。
人見 Like
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人見さん、ありがとうございます。懐かしくって、嬉しくなりました。1960年生まれなのですが、大学生になってから、通い始めました。al johnson, brothers johnson, EW&F, patti austin,,,,,,。CDが再版されると買い求めて、往時の楽曲を今でも楽しんでいます。そうそう、water landの白い袋、カッコ良かったですよね!今後ともよろしくお願いします。
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