「遂にコリーヌ・ベイリー・レイちゃんの新譜が出る!」
十二月初旬に第一報を目にし、年末より一曲ラジオで耳にし、首を長くして待っていた。
Corinne Bailey Rae コリーヌ・ベイリー・レイ待望の二枚目『The Sea (あの日の海)』が出た(※)。
そして、「イシイ ポップス・イン・ザ・ボックス」で、毎週一曲ずつ全曲オン・エアを行う(これ迄の作品も全曲かけている)。
昨晩の番組で早速冒頭の二曲をオン・エアした。水曜日発売の新譜が多い中、その前夜(に実際は店頭に並ぶ)の生放送枠を持てている事を本当に嬉しく思う。
「待望の」というのはファンからすれば全ての新譜に当て嵌まる至極当然の形容なので、理屈っぽい人見としては(笑)なるべく使いたくないのだけれど、今回の彼女は特別だ。レコード・デビューから約四年半、デビュー・アルバムから四年弱というインターヴァル。じわじわと米国を含む世界中で人気が出て、トゥアーを終えてから三年弱。素晴らしかった来日公演も2007年の二月の事だった(もう三年経つのか・・・)。
その間に身内の不幸があった。
2008年の三月、夫でミュージシャン、レコーディングとトゥアーにも参加していたホーン奏者のJason Bruce Rae ジェイスン(ジェイソン)・レイが急死した(※2)のだ。享年三十一。彼女は二十八歳だった。
音楽活動を辞めてしまう可能性も含め、僕を含む多くが彼女のその後を心配していたと思う。その後我々が聴けた彼女の歌声は、僕の知る限りアル・グリーンのアルバムに参加した二曲のみ。消息も情報も届かなかった。アルバムのライナーによると、実際、一年は何も手に付かない状態だったという。
其処から新たな一歩を踏み出した新作である。先月よりラジオで聴いていた新曲はあの魅力的な声、歌い回し、音の感触を継承しており、しかし重さ、暗さがかなり目立つものだった(こちらの先入観もあってであろうという事は否定しない)。
果たしてアルバムは。
未だ数回聴いただけだが、上記の通り、重さと暗さは確かに目立つものの、基本的にデビュー作の延長線上に位置する内容という印象。かなりの距離を進んだ線上だとは思うけれど。
彼女自身が弾いている生ギターがとても優しく鳴っている。歌声も優しい。でも伏し目がちで、口許も前作の様に笑っていない気がする。
当然、謝辞の最後=ブックレットの最後の最後にジェイスン・レイの名前も載っている。
“This album, like everything I do, is made to try and impress
Jason Bruce Rae.” と。
「このアルバムは、私のする全てと同じく、ジェイスン・ブルース・レイに喜んで貰おうと思って作った」という解釈で合っているだろうか。
控え目だが、数曲で聴けるエレクトリック・ギターでのリズム・カッティングもやたらと心地良い。ナイル・ロジャーズ(ロジャース)、アル・ムケイ(マッケイ)好きとしては此処も好ポイント。
五曲目がモロにEW&F風リズム・アレインジメントで、デニース・ウィリアムズを連想しちゃう所が我乍ら安易。
二曲目のベイスが少しポールっぽくて、何とも「アビィ・ロード」。
一曲目を初め、かなり歌い回しがリッキー・リー・ジョーンズっぽい気がする。囁く感じだからだろうか。
良い曲、良い歌、良い声、良い歌い回し、生楽器で普通に演奏された良いオケ、良いアートワーク。全十一曲で四十三分という長さも理想的。意外とこういう「収まり」の良い「普通に良いアルバム」というのは少ない。
これでLPが出れば言う事無し(待つ!!)。
暫く我が家のCDプレイヤーに入りっ放しとなりそうだ。
二月十一日加筆:
矢張り、「暗い」「重い」という声を近くでも活字媒体でも電波を通しても聞く。
当然ではないか。本昨は彼女が彼女自身の必然として当然選択した、彼女が避けては通れない「独白」をするとどうしても伴う暗さ・重さなのだから。
渋谷陽一とピーター・バラカンが同じ曲(しかも二曲のセットとして)を選曲したのが興味深かった。
tr.7 I Would Like to Call It Beauty
tr.8 Paris Nights/New York Mornings
佐野元春も後者のみかけている。
(※)日本盤は一週間先行で発売。ボーナス・トラック二曲入り。確かに飽く迄もボーナスはボーナス。全十一曲の本編の収まりがとても良い。
因みにボーナス二曲のうち一曲はザ・ジミ・ヘンドリクス・エクスペリアンスの「リトル・ウィング」。確かに良い曲で、彼女らしい良い仕上がりだが、どうも「ジミならこの曲」という傾向が強過ぎて嫌だ。例えば同じミディアム〜スロウなら「Angel (エインジェル)」もどうか御忘れ無く!
(※2)当時の報道では「ハイド・パークで発見」というショッキングな内容だったが、今回の日本盤解説には「市内のフラット(何処の市内? 自宅? 宿泊先?)で発見された」とある。又、享年も当初は三十二歳と報道されていたが三十一歳となっている。本文は新しい情報である後者に拠った。
因みに彼が率いる(率いた)「Haggis Horns (ハギズ・ホーンズ)」のアルバムとシングルを訃報の直後に買った。僕はザ・ブラン・ニュー・へヴィーズ辺りの流れを汲んだ、つまりU.K.の The J.B.’s フォロワーのひとつ(クラブ寄り)として興味深く聞いた。コリーヌ・ベイリー・レイが客演しているザ・ニュー・マスターサウンズ辺りとの共通点も(人脈上、安易だが)指摘出来るだろう。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’10. (音楽紹介業)
コメント
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師匠、今、聴きながらカキコミさせていただいています(正座していません)。
まず、感想は・・「戻ってきてくれてありがとう」。
そして、やはり、《唯一無二》の声の持ち主であり、シンガーだなと。。。
《唯一無二》・・・凡人には羨ましいことだけど、本人は大変でしょうね。
きょうはコリーヌちゃんに浸りますよ!! Like
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中西miyuki様
師匠って、そんな・・・。
儂ゃあ弟子なんぞ、とった憶えは無いぞ!!(笑)
ホント、彼女の魅力は色々あれど、先ず「声」ですよね。
こちらが落ち着きたい時には落ち着かせてくれる。
こちらが燃えたい時には燃えさせてくれる。
こちらが尖った気分の時には更に尖らせてくれる。
こちらが優しい気持ちの時には更に優しい気持ちになれる。
聞き手の様々な気分を背中から「その調子でどうぞどうぞ」と押してくれる、そんな気がします。
今回は哀しみ多めの声ですが、その「人を前向きにさせる要素」は減っていないと思います。
ちょっと褒め方が盲目的過ぎるかな(笑)。
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