Rush ラッシュが、この六月より十月(追加有り?)に、1981年のアルバム『Moving Pictures ムーヴィング・ピクチャーズ』の丸ごと再現を含むトゥアーを北米で行うという。
こちらはCDジャーナル誌のウェブサイト。
矢張り、彼等の代表作はこれなのだな。僕も彼等の一番好きな一枚となると結局これになるだろうな。
僕は、前作にあたる『Parmente Wavesパーマネント・ウェイヴズ (1979)』収録のシングル(ヒットした!)「The Spirit of Radio ザ・スピリット・オヴ・レイディオ」で彼等を知り、好きになった。
それに「大」が付くのは『ムーヴィング・ピクチャーズ』収録の「Tom Sawyer トム・ソーヤー」を聴いてからだ。
そしてその年末に出されたライヴ・アルバム『Exit … Stage Left 神話大全』で、彼等の「ステューディオ(スタジオ)・ヴァージョンをそのまんま再現出来る演奏能力の高さ」に脱帽し、集めたくなった。
翌年春に僕は高校生となり、定期券の範囲内に、輸入盤店=今は亡き「Water-Land」の存在を知る。狭い店だったが、米軍基地近くという事も有り、品揃えはかなりアメリカ人向けであったと思う。だってラッシュの旧譜が揃っていた位だから!(笑)
廉価再発盤、そしてカット・アウト盤の安さに驚き、多分最初に購入したのが10ccの『The Original Soundtrack ジ・オリジナル・サウンドトラック』、そしてラッシュの旧譜を順番に買い始めた。最初の「まんまゼップ」っぷりに可愛さを感じ、セカンドでドラマーが交代、急速な成長を遂げる彼等に驚いた。
初代ドラマーだったJohn Ratsy ジョン・ラトズィが死去した際の拙文で、彼等に就いてつらつらと書いた。
一応確認の為に再読したら、続けて書こうとしていた内容はそちらで執筆済みであった(既にかなり重複している)。
なのでその部分は省略して(笑)、
ラッシュは音楽と同様、その活動もかなりコンセプチュアルである事でも知られる。
彼等は「四枚スタジオ、そしてライヴ」というアルバム発売のローテイションを保っていた。
何と四回り、即ち二十枚目迄、そのパターンを守った。
憶えやすくて有難かった。
まぁ、憶えなくても良いのだけれど、それを言っちゃあオ終ェよ(笑)。
そして、ライヴ・アルバムでその前の数年間の或る程度の総括をし、次作でかなり大きな方向転換を図ってきたのも特徴。
一般に、この「ライヴ・アルバム或いはグレイテスト・ヒッツ・アルバム」でひと区切りというのは、レコード会社との契約消化の為であったり、グループが音楽的に行き詰まったりしている時の充電(時間稼ぎ)の為である事も多いのだが、彼等の場合はそういうネガティヴな印象は無く、上記の通り、ほぼ「まんまライヴで再現」するバンドなので、一種の「自慢」として(笑)の「時期毎のライヴ・ベスト」としてのまとめを行っていたのだと思う。
因みに彼等は基本的にはギター、ベイス、ドラムズのトリオだが、シンセサイザーを駆使した、かなり凝った音楽を創る(演奏自体は基本的に彼等自身だけでこなしている)。
Alex Lifeson アレックス・ライフスン(ライフソン)
六弦ギター、十二弦ギター、生ギター、シンセサイザー(フット・ペダル)
Geddy Lee ゲディ・リー
ベイス、ヴォーカル、シンセサイザー、
六弦ギター(ベイスとのダブルネック)、シンセサイザー(フットペダル)
Neil Peart ニール・パート
ドラムズ(アクースティック&エレクトリック)、パカッション(鉄琴含む)
ライヴでも三人でこなしてしまうのだ。シンセサイザーの音色切り替え等は別の人間が行っているのだと思われるし、八十年代以降はシークエンサーを使う曲も登場するけれど、「舞台で音を出している」のは三人だ。
先月の「ロックの学園」では、授業を行った一人、加藤ひさし先生(ザ・コレクターズ)が「三人で九人分の演奏をする」と説明し、
「これはスカパラと一緒です」
という驚愕且つ爆笑の結論を導き出していた。
ホントだ。
『ムーヴィング・ピクチャーズ』は九枚目。つまりそれ迄の「第二期」路線最後のステューディオ盤であり、ラッシュ人気がピークに達した一枚でもある。
十一枚目『Signals シグナルズ』以降、彼等の音楽性コンパクトな方向へとシフトする。大作・組曲・テクニックひけらかしを愛するハード・プログレファンには少し物足りない方向である事から、『ムーヴィング・ピクチャーズ』は特別な一枚と言える。
但し飽くまで「少し」物足りないだけなのであって、評価・人気は持続している。新譜が出れば毎回買い、その次も買う事になるファンがとても多いという事は、基本的に彼等はファンを裏切らない範囲内での変化をしている(或いは「変化」に付いて来る様に潜在的に調教している!)と言えるだろう。
イエスら初期の技巧派プログレ、ゼップ(レッド・ゼプリン[ツェッペリン])の違和感の無い変拍子ロックに間に合わなかった僕等の世代で、楽器をやっていて、ロック好きで、テクニックがあったら、挑戦してみたい・コピーしてみたい現役バンドと言えば何と言ってもラッシュだった(※)。
フュージョン(特に和製フュージョン)を良しとしないテクニック派のロック・ファンは、「ラッシュを聴け!」「再結成キング・クリムズン(クリムゾン)を聴け!」と叫んだものだ。
その代表的な一枚が『ムーヴィング・ピクチャーズ』であった。収録曲の「YYZ」だった。「Red Barchetta 赤いバーチェッタ」「Limelight」「The Camera Eye」だった。
うわぁ書いてるだけで燃えて来た。
来日は、・・・しないんだろうなぁ、どうせ。残念だけど。
(※)ドラムズはビル・ブルフォード(ブラッフォード)、ギターはジミー・ペイジのそれぞれ延長線という側面を持つ。ヴォーカルはロバート・プラントの声質でジョン・アンダスン(アンダーソン)のメロディを歌うかのように感じられる場合が有る。
そして何と言ってもベイス。『ムーヴィング・ピクチャーズ』辺り迄はリッケンバッカーがメイン。クリス・スクワイア、ジョン・エントウィスル、ポール・ムカートニー(マッカートニー)である。
思えば『2112 西暦2112年』は未来版(そして簡潔版)『トミー』でもある。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’10. (音楽紹介業)
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