湘南ビーチFMウェブサイトに2002年の二月より二年ほど掲載された「DJ’s Recommendation」への拙文を復刻・再掲載する。これは複数によるリレー連載で、僕は六本(実はもう一本)書いている。
尚、本文中、若干の語句の訂正を行った。
この回は、本文冒頭にある通り、2003年夏が初出となる、僕が書いた最後の「DJレコメン」だ。
2003.8.9. 初出
Name: Luke Morley ルーク・モーリー
Title: El Gringo Retro エル・グリンゴ・レトロ
Label: 東芝EMI
Number: TOCP-65673
・・・ 人見欣幸 がオススメします!
少なくとも僕にとって、2001年2月に発売された本作以降、現在迄の二年半に出た新譜の中に、これ以上のものは無い。勿論、当コーナーで紹介してきた諸作品も含めて気に入っているものは多いが、本作以上では、正直な話、無い。
特に、古くからのブリティッシュ・ロック(「ブリット」なんぞと縮めちまわない類のね)がお好きな方には強くお薦めする。
ルーク・モーリーがリーダー/ソングライター/ギターリストとして ’90年代を過ごしたバンド、Thunder サンダーは、曲のクォリティ、歌唱力、演奏力、ユーモア・センス、そのどれもが素晴らしかった。バンド名以外は文句の付けようの無いバンドだった(笑)。
因みに、その「土壌」側の用意が整ったらしく、サンダーは昨 (2002) 年に目出度く再結成を果たしている(一時的という話も有るが [※] )。その再結成アルバム『Shooting at the Sun シューティング・アット・ザ・サン』も好作だ。
さて。
しかし。
矢張り。
それでも、この『エル・グリンゴ・レトロ』だ。
本作で披露されているのは、サンダー以上にストレイトな
「アメリカ南部発祥の黒人大衆音楽に強く憧れる英国白人による、小粋で何処か調子っ外れな酔っ払いロックン・ロール」
—つまり正しいブリティッシュ・ロックである。
アルバム・タイトルからして、メキシコ人が北米の白人を少々茶化して呼ぶ際に使用するらしい「グリンゴ」(リトル・フィートでこういう曲が有りましたね)と、「レトロ」。それを自分で付けちゃうんだから、まぁ何をか謂はんや。
「ザ・懐古趣味な白ン坊ちゃん」といった所か。
一曲一曲に就いて言及しようとするとキリが無い。
好きな音楽色々有れど、特に上記した「正しいブリティッシュ・ロック」が大好きな僕のツボ直撃の名曲群なのだ。
先ず、発売前にラジオで「Loving You (Is All I Can Do) ラヴィング・ユー(イズ・オール・アイ・キャン・ドゥ)」を聴いた。Al Green アル・グリーンに曲を提供する話が来た際に作った曲だそうで(結局その話は流れている)、よってモロに アル・グリーン・スタイル の曲。この一曲で僕は本作が傑作であると確信し、そして実際その通りだった。
サンダー時代にも有った彼のソウル/ファンク色、特に The Isley Brothers ジ・アイズリー(アイズレー)・ブラザーズ (※2) を意識したと思われる二曲には御丁寧に「(Parts 1 & 2)」の表記が(何て判り易いんだルーク!)。一曲は「Harvest for the World ハーヴェスト・フォー・ザ・ワールド」、もう一曲は「Spill the Wine スピル・ザ・ワイン」(オリジナルは War ウォー)の影響が特に強い。
ほぉら、キリが無い。
以下、強引な省略として、上記以外に、
The Beatles ザ・ ビートルズ
(中期=まだバンド・サウンドの頃の、という意味で)
Humble Pie ハンブル・パイ
Faces フェイセズ
Rod Stewart ロッド・ステワート(スチュワート)
The Rolling Stones ザ・ローリング・ストーンズ
Rockpile ロックパイル近辺
(Dave Edmunds デイヴ・エドモンズ、Nick Lowe ニック・ロウ他)
The Allman Brothers Band
ジ・オールマン・ブラザーズ・バンド
Santana サンターナ
Lenny Kravitz レニー・クラヴィッツ (初期)
The Black Crowes ザ・ブラック・クロウズ
そして何と言っても、
Ronnie Wood ロン(ロニー)・ウッド のソロ・ワーク。
—等といった名前にピンと来るアナタであれば、このアルバムは「大当たり」の筈です。
さて、彼(等)の 不運 を代表するひとつの例として、「『ハード・ロック/へヴィ・メタル』のジャンルに入れられてしまっている」という事が挙げられる。
上記のリストから察して頂けると有難いのだけれど、サンダーは「ハード・ロック『も』演るロックン・ロール・バンド」<
/span>でしかない。
The Who ザ・フー
〜Free フリー
〜ハンブル・パイ
〜Bad Company バッド・カンパニー
〜Whitesnake ワイトスネイク(ホワイトスネイク) (※3)
というそれであり、
Deep Purple ディープ・パープル(Ian Gillan イアン・ギラン)
〜Judas Priest ジューダズ・プリースト
〜Irom Mainden アイアン・メイデン
〜ジャーマン・メタル及び北欧メタル
といった流れは全く汲んでいない。
よってメタル界で大受けするとは考えにくい。
不運 だ。
これはリスナー側というよりむしろ提供側=マーケティングの問題であろう。提供側のいちミーディアであるラジオ番組を持てている人間として、彼(等)を広く「ロック」として紹介したいと思う次第だ。「何でへヴィ・メタル村でしか話題にならんのだ?!」という問題提起を込めつつ。
だってこんなに良いんだもの!
補遺
(※)
素晴らしい事に、一時的では無く、彼等は以降サンダーとして順調な活動を行っている。
七枚目のアルバム・タイトルが
『The Magnificent Seventh』
・・・。
映画「荒野の七人 (The Magnificent Seven)」のもじりと、相変わらず下らなくて嬉しい(笑)。
【追記】
残念な事に、結成から二十年となる2009年の一月に再解散が発表された。
(※2)
サンダーの友人で音楽業界の先輩・初期のプロデューサー、そしてこの『エル・グリンゴ・レトロ』でも共作者・ギターリストとして名を連ねる Andy Taylor アンディ・テイラー(元Duran Duran ジュラン・ジュラン[デュラン・デュラン])は、’85年を代表する名盤『The Power Station 33 1/3 (ザ・パワー・ステイション 33 1/3)』で上記のジ・アイズリーズの大名曲「ハーヴェスト・フォー・ザ・ワールド」をカヴァーしている(こちらはカヴァー)。
しかもこの曲のみ、彼が Robert Palmer ロバート・パーマーとリード・ヴォーカルを分け合っている事から、かなりアンディの強い意志が反映されての選曲と想像出来る。
ザ・ビートルズにしてもロッドにしても彼等にしても、イギリスのソウル好きにはアイズリーズ好きが多いのだな!と感心することしきり。特にルークは、歌い方もかなり似ているので、ギター&ヴォーカルでひとりアイズリー(ロナルド&アーニー)が出来る(笑)。
格好良かったなあ!
(※3)
サンダーのヴォーカリスト=Daniel Bowes ダニエル(ダニー)・ボウズはポール・ロジャーズやDavid Coverdale デイヴィッド・カヴァデイル(デビッド・カバーデール)の系譜を継ぐ声の持ち主だが、実際ルークは、九十年代にワイトスネイクへの参加を打診された事が有る。ありがちな事だがこの話に尾ひれが付いて「加入する」となって話が広まり、「金に目が眩んだか」とサンダーのメンバー(特にダニー)との友情が壊れかかったそうだ。
つまり彼も「メタル・シーン」「メタル・ミーディア」「メタル・ファン」の足枷に困っている一人なのだと思う。
多数派だと思うけど、僕はやっぱり 前期の白蛇 が好きだな。Bernie Marsden バーニー・マーズデンと Mickey Moody ミッキー・ムーディが居た頃=’80年前後の。
尚、本文冒頭の「以降、これ以上のものは無い」のくだりは、
「以降、本作に匹敵するのは、2006年に発表された Corinne Bailey Rae (コリーヌ・ベイリー・レイ) の同名デビュー・アルバムぐらいだ。」と改める。
嗚呼、愛しのコリーヌちゃん。
・・・何だ、結局は其処に落ち着くのか(笑)。
人見 “Hit Me!” 欣幸, ’08.
コメント
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「Loving You Is All I Can Do」。
名作だね。俺もこれが大好きです。
そうか、アル・グリーンに書いた曲なんだね。
素晴らしい! Like
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Taro
でしょでしょ。
最後の曲がもろオールマンズで、という事は「ザイヴズII」のラストとの共通点も感じるのですよ、と本人に指摘してしまおう(笑)。
人見 Like