今日(八月八日)、買って来た。
SLY STONE /I’M BACK FAMILY & FRIENDS
今月後半と告知されていたのに、レコファン公式アカウントが七日に「LP が先行で到着!」とトウィッター(ツイッター)で呟いたのだ。
冷静ではいられない一日が過ぎ、月曜日午前、横浜店へ電話を掛けて在庫確認をし取り置きを依頼。
夕刻、横浜へ出向き、入手。
帰宅。
いま一回目を聴いている。
そして、同じ写真を使用したポスター状のイナー・スリーヴ(スリーヴではないが)。
大きい事は良い事だ。縦がLPの三倍、横が二倍(左下が LP だ!)。
格好良い。
CDの封入特典じゃあこの芸当は無理だぜ。ましてや配信なんて。そのうち「アートワークや詳しいクレディットはデイタでどうぞ」「豪華盤アートワークは別売りで配信」なんて事になってしまうのだろうか。味気無い。
写真は ’69年か ’70年のもの。当時のLP『グレイテスト・ヒッツ』裏ジャケで被っていた赤い毛糸の帽子だ。
僕はその写真を見て、似た感じの(まあ普通の)茶色の毛糸の帽子を母から奪い被る様になった、という個人史にも登場する大切な帽子だ(笑)。僕が二十歳、’87年頃の話。
その頃のスライは、サントラやゲスト参加等の形で一曲ずつ新曲を発表してカムバックを画策。しかし実態は周りが無理矢理引っ張り出そうとしていただけだった。
いま二回目を聴いている。
何しろ約三十年振りの新録フル・アルバムなのだ。
七曲はセルフ・リーメイク。アマゾンのウェブサイトで試聴した時には気付かなかったけれど、ゲスト・ミュージシャンが演奏している曲以外のドラムズと殆んどのベイスはおそらくプログラミングだが、結構悪くない。かなり良い雰囲気の「疑似バンド・サウンド」だ。
ゲストとバックグラウンド・ヴォーカル以外の楽器担当が明記されていない。
Produced by Jurgen Engler, Chris Leitz and Sly Stone
Additional instruments by Jurgen Engler & Chris Leitz
というクレディットから想像するに、共同プロデューサーである二人がベイシック・トラックをプログラミングや彼等自身の演奏で作り、それにスライとゲストの歌・演奏を重ねたのだろう。
新曲三曲も、中々良い。一曲はカヴァー、一曲はスライと Ruby Tuesday Jones なる人物との共作そして残る一曲がスライ単独の作。そしてこの三曲には、
“Courtesy of Ruby Tuesday Jones at Phygn Prynt, Grand Prairie TX”
と但し書きが在るので、今回の録音とは違う、おそらくテクサスで隠遁生活をしていた時代の録音からのピックアップなのだろう。何年か前の未発表曲と想像する。
そしてこの三曲は基本的に生演奏だ。良くも悪くも時代性を無視した、七十年代の彼風。「ファミリー・アフェア」の頃と変わらぬ、当時のエレクトーンに付いていたものと同じ音のリズム・マシーンに驚く(笑)。
勿論スライの声は衰えている。そんな事は三十年以上のただれた生活を思えば当然だし、近年の(二度の!)来日公演で判っている。それでも呪術的な彼の声は充分に魅力的だったし、その「声」は本作でも聞く事が出来る。ゲストの声や演奏に較べて主役である彼の声が若干オフ気味だ。
・・・昔もその傾向が強かったので「変わらないなぁ」と。
元々、彼の歌声は「ソウルフルか否か」という観点で言えば良い声でも素敵な歌い回しでも無かった。彼にしか出せない、くぐもっていて、遠くから聞こえてくる、そしてどうも、こちらに向かってというよりもその向こうへ歌いかけている様な、希望を振り絞って歌う声であり音像だったと思う。
’71年以降は、希望をまだ含みつつも諦念がメインとなり暗さが増す。
視覚的に喩えるならば「こちらを向いてはいるけれど、焦点がぼやけていて遠くを見ている」、’71年以降は「下を向いている」感じだった。
その印象は今回も同じ。’71年以降のそれ。
特に低音の惹き込まれる感じが堪らない。
兎に角、本当に新作が出た。先ずそれが嬉しい。
そして、妙に元気なアンドロイドっぽく周りが繕った感じではなく、相応に衰えた、しかし「やる気」は感じさせるというとても自然な、「全盛期から荒れたライフ・スタイルでの四十年を経たファンク界最初のシンガー=ソングライターの今」が伝わってくる、感慨深い一作となっていると思う。
その四十年のうちの約二十五年、彼名義の楽曲を出せずにいた男の復帰作である事を思えば充分過ぎる程のクォリティではないだろうか。
これから三回目を聴く。
尚、LPはCDよりも三曲少ない全十曲。とは言えカットされた三曲は別ヴァージョンなので、「曲」は全て収録されていると言って良いだろう。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’11. (音楽紹介業)
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