松村雄策『苺畑の午前五時』
先月、久々に小学館文庫で再発売された。
チャボが解説を書いている。これまた名文。
永遠の青春小説。音楽少年の成長譚。
十代とザ・ビートルズの活動期間が重なっていた著者が本当に羨ましくなる。
基本的な「舞台」としての音楽。
背景としての音楽。
小道具としての音楽。
その設定が、配置が、距離の保ち方が素晴らしい。ザ・ビートルズが対象なので、時代を超えて、世代を超えて楽しめる。勿論、それを可能にしている著者の筆力あっての事だけれど。
現在のところ、彼の唯一の「小説」である。それが惜しい。と同時に本作を越えられないと思っているのかも知れないとも想像する。それ程に、もう何度読んだかわからないけれど毎回どきどきわくわくする。
この文庫本も購入するなり二回続けて読んだ(笑)。
その副読本的なものも発売された。
松村雄策『ウィズ・ザ・ビートルズ』
同じく小学館。こちらは単行本。書き下ろし。
フィクションではない、いわゆる「ザ・ビートルズ本」だ。
ザ・ビートルズのアルバム・ガイド。客観デイタは少ない。著者の私見卓見が満載。
あとがきでも本人が触れているとおり、「ロッキング・オン」や「大人のロック!」に彼が書いてきたザ・ビートルズに関するものを纏めた形なので(と言いつつ書き下ろしだが)、彼の文章を追いかけている、つまり僕の様なファンからすると新たな発見は少ない。「纏めて読めるので有難い」、そんな一冊だ。
1982年新春、中学卒業間際の頃、初めて「ロッキング・オン」を買った。彼の文章に出会った。運良く彼の最初の単行本『アビイ・ロードからの裏通り』が上梓されたばかりで、その宣伝も出ていた。
すかさず購入。
あれから三十数年。文体なり筆致なり、何より「岩石生活者」としての姿勢に大きな影響を受けている。
渋谷陽一からの影響も当然のことかなりのものだけれど(ROを買う切っ掛けは彼が「サウンドストリート」で「自分の雑誌で」と話していたからだ)、松村雄策の「軽妙な語り口」と「真摯な姿勢・内容」というセットが好きだ。理想だ。彼の文章がROに載らなくなったとしたら、僕はROを買い続けるかどうかを悩むだろう。
「苺畑の午前五時」「ウィズ・ザ・ビートルズ」
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’12. (音楽紹介業)
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