「湘南ビーチFMマガジン」十号(夏号)の最終頁(裏表紙前)で少〜しだけ触れてはいるものの(「ロック・イン・ジャパン・フェス」の項)、本ブログでは久し振りに書くアンチェイン。
(彼等を初紹介した文章はこの回の後半に。)
彼等はこの三月に初のフル・アルバム『ラプチュア』を発表した。それを期に、それ迄のミニ・アルバム(四枚発表している)よりも大きなスケールで賭け(売り)に出ている。バンドもスタッフもレコード会社も「今だ!」と感じているのだろう。
アルバムは、既発表曲の再録(多くは再録音)も含む約一時間・全十四曲。このままの曲順でのライヴも聴きたいと思わせる、充実の演奏が絶妙の曲順で入っている好盤だ。
今春の、彼等のラジオ、雑誌への露出はかなりのものがあった。ルックスの良さを買われての、時計雑誌(ムック)へのモデル出演というユニークなものもあった。それが又、スカしてるんだか照れてるんだか、格好良かったんだ(笑)!
その後、僕は彼等のライヴを三回観た。
5/11 横浜
6/26 恵比寿 (ワンマン)
7/20 横浜
昨年の晩夏に彼等を知ってからそろそろ一年。その時点で既にかなりのレヴェルだと思っていたのに、その後の成長は著しい。
更に、上記の三回の間にも、僅かふた月と少しだというのに、観る度に成長している。
驚く。
五月。
新作を、初のフル・アルバムを引っ提げての彼等は、ひと格上がったかの様な余裕でステイジをこなしていた様に見えた。MCというよりも挨拶程度の話には、(それが面白い・面白くないという意味では無く)「次の曲をすぐに演りたいんだけどチューニングをし直さなくちゃいけなくて!」という想いが見え隠れしており、そのぎこちなさが魅力にもなっている。
演奏力は言う事無しだ。ますますタイトになった観がある。
六月。
初のワン・マンを東名阪で行っている。順番に書くと「名東阪」で、名古屋に続いての二回目のワン・マンという事になる。
当然ではあるが、長い持ち時間に対応したペイス配分への苦慮が窺われる曲順だった。半ばにミディアム・テンポのものを入れて小休止っぽくしたのは、メリハリをつけるという意味では正解で、その曲「ライフ・イズ・ワンダー」での四人のリラックスした遊びっぷりも観ていて嬉しかった。今後は、特にワン・マンの時には、こういう、少しジャム(バンドの「ザ・ジャム」ではなくて[笑])っぽい曲を増やしても面白いと思う。
あと、本編の半ばやアンコールで、一種の洒落としてカヴァー曲を披露してみるというのはどうだろう? コピー・バンド時代のレパートリーでも、スティーヴィー・ワンダーでも、ワン・マンの観客ならば(=目当てが彼等だけという客層ならば)、「こういうのはどうでしょう?」「僕等のルーツです」という様な形で、一種の啓蒙をしても良いと思うのだけれど。
二十年近く前に、ジュン・スカイ・ウォーカーズがザ・モッズを、エコーズがジ・オールマン・ブラザーズ・バンドを(しかも「ドリームズ」!)、ユニコーンがジョニー、ルイス&チャーを、ザ・ブームがザ・スペシャルズをカヴァーしていた時は、成程ねと思ったものだ。ファンに対しての一種のサーヴィスになるのではなかろうか、と。
只、正直に書くが、長丁場ならではの課題も露呈した。
間(ま)の処理方法だ。
チューニングはどうしても必要だ。彼等は全員が楽器担当なので、みんなでチューニングを始めてしまうと、誰もマイクに向かわない事になる(ドラマーは話さない)。舞台は暗転、彼等は背中を向けて、しかもチューニング・メーターを使うので、
デンデ〜ン
デンデ〜ン
♪デンデ〜ン
という調弦音が外に出る事も無く、つまり無音になってしまう。
話す題材を細かく詰めていなかったのか、演奏で上がった客席の熱をキープさせておく程のMCは聞けなかった(内容はそれなりに面白かったのだけど)。客席後方に陣取っていた僕は、観客が少々ぎこちなくなっているのに気付いてしまい、残念だった。
勿論、直後には、又、素晴らしい演奏が始まるのだが、そのぎこちなさは、数曲の間、残ってしまっていた。
ローディを袖に待機させて、チューニング済みの複数の楽器を持ち替えさせるか、ドラムズ、ベイス、ギター×1でジャムを演りつつ、ギターリスト一人ずつチューニングを済ませるとか、何か、「無音・暗転」という勿体無い時間が無くなる手立ては有ると思ってしまった。
本当に、進行というのは大変だ。
そして七月。
先日の日曜日、八時間近く展開されたフリー・コンサート「蓮沼LIVE」(※)に出演したひと組として彼等を観た(ちなみにコンサートは翌日との二日間だった)。ちなみに出演順は未発表。客席やロビーに、幕間の度に「次は誰?誰?」というワクワク感が漂っている。それは新鮮なワクワクだった。
先ず驚いたのがアンチェインの知名度の高さ。
失礼にあたるのかも知れない。僕が世間(若者の事情)を知らな過ぎる、それは事実だ。
オープニングSEで沸き、早くも一曲目「You Over You」でうねり出す客席。曲を知らないと出来ないアクションを皆がしている(五月蝿くなる所でヘッド・バンギングが激しくなったり、サビで手を挙げたり)。
大体、トリから数えて三番目だったのだ。有名じゃなかったらもっと早くに出ていた筈ではないか。イヤハヤ御見逸れ致しやした。昨夏、遅れ馳せ乍らアンチェインを知った時の、横浜のライヴハウスというキャパと動員(ガラガラではなかったが、ギュウ詰めでも無かった)を思うと驚きだった。
勿論、嬉しい驚きだ。
アンチェインが知られている。もっと知られていく。何て良い事だろう。
そんな瞬間に、現場に、僕は証人として居合わせている。size=”5″>何という幸運だろう。
今回は短時間での顔見せ、しかもフリー・コンサートという、六月とは逆のシチュエイションだ。「以後、御見知り置きを」的な、凝縮した選曲と演奏だったと思う。ますます、「ひとつの音の塊」になっている四人の結束の「形」「関係性」が、人間関係としては、スピッツやミスター・チルドレン、古くはハンブル・パイに近い「フロントマンと、彼をすかさず援護する三人、しかし明らかにバンドである」というフォーメイションに落ち着きつつあるのを感じた。
そして嬉しかったのは曲間の間(ま)が短かった事。
直前のバンド(あまりにもまんまモーターヘッドな、最高にイカレたトリオだった!)が作った熱が、良い具合に残されていたのも幸いしたと思うが、
チューニングをし乍らMCを、しかもセリフっぽくして「照れ」をかなぐり捨てた谷川正憲(ヴォーカル、ギター)に、
前述した直前のバンドの狂乱っぷりをちゃんと引き継いだ激しい演奏とアクションで観客を沸かせた谷 浩彰(ベイス、コーラス)に、
ワン・マン時には「間を埋めてます」感が否めなかった彼のMCが無かった事に(彼のMCは好きなのだが、前回は運悪くそういう役回りになってしまっていたのだ)、
ますます女子鷲掴みの、恍惚の表情でギターを弾く佐藤将文(ギター、コーラス)に、
マーティン・チェインバーズ(プリテンダーズ)タイプの「どんな曲でもロックにしてやる!」という、僕の好みにズッぱまりの演奏をする吉田昇吾(ドラムズ)に、
改めて驚き、改めて惚れ直した。
バンドは「演り切った」感と共に気持ち良く舞台を去ったと思うが、持ち時間はあまりにもアッという間に終わった。観客の多くがそう感じていたのではないかと思われる、不完全燃焼っぽい空気が客席に漂っていた。
まぁ、その想いは次のバンドにちゃんと向かったので、イヴェントとしては成功なのだけれど。
そして、その「不完全燃焼」を解消するべく、彼等のライヴに足を運ぶ人が増える筈だ。
さてさて、そんなアンチェイン。
近いところでは、来週の木曜日に恵比寿、その週末には、冒頭に記した「ロック・イン・ジャパン・フェスティヴァル」、そしてサマー・ソニック(大阪)に出演する(詳しくは彼等の公式ウェブ・サイトをどうぞ)。
僕の様な洋楽大好きな四十代や三十代あたりにも大変好かれる音楽を奏でる彼等だが、何と ’82〜3年生まれという驚くべき若さだ。『スリラー』や『シンクロネサティ(シンクロニシティー)』の頃に生まれた事になる。
七十年代の音楽、特にスティーヴィー・ワンダー(特に声の張り方や歌い回し)らニュー・ソウルやフュージョン(カッチリとしたアンサンブルはこの影響か)からの影響を公言しているし、ジャミロクワイやザ・ジャムの匂いもする。
つまりソウル好きの英国人という、僕が大好きな面々と共通する匂いがするのだ。
微力乍ら、今後も彼等を応援していく所存だ。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’08. (音楽紹介業)
(※)
東放学園がサポートしているフリー・コンサート。学生の実習として、プロの出るライヴを企画・運営しているのだという。出る側は学園祭気分、学生側は卒業〜現場スタッフへの力試しという事なのだろう。
そんな経緯もあって、フリー・コンサートとなっているそうだ。歯科大が格安(経費)で一般人を治療しているシステムに近い? 案内板が、紙にマジックで手書きだったりする、そんな手作り感が楽しい。
いずれにせよ、観る側としては、一日に十組ぐらい観られるフリー・コンサートは有難い。次に「お金を払って観たいバンド」を探す絶好のショウケイスだ。
多くの観客にとって、アンチェインが「そっち側のバンド」になった事を信じたい。
今回知ったが、東放学園はTBS教育事業本部が設立した学校が前身となるのだそうだ。成程、ブリッツと関係が有るのはそういう訳だったのかな?
(控えめな御知らせ)
他局なので控え目に、最後の最後に記すが、この五月〜六月にアンチェインの特集を行った。こちらのブログを御参照頂きたい。
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