album review for CHIC freaks and soul&disco lovers
Daft Punk
“Random Access Memories”
日本でも大ヒット中の
ダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』に関して
先ず、シーク(シック)・フリーク諸氏の為に基本情報を。
○アルバム:
現在の所、CD、LPで発売中。収録曲及び曲順同じ、LPは二枚組なので少々高めだが全曲のダウンロード・アクセス券入り。
○シングル:
七月中旬予定で12インチ・シングルが発売されるという情報が六月上旬に出ている。
12″ single
GET LUCKY /Daft Punk
Columbia[Europe] 88883746911
限定盤。予価がかなり高めなので、一枚ものとされているが5〜6ヴァージョン入った二枚組なのでは?という想像(かなり都合の良い期待を込めた想像)もしている。
尚、アルバムに先行して同曲がダウンロード発売されているが未聴。フルーオーディオPVと同一とするならば、アルバムは 6’10” でシングルは 4’07″。おそらく単純なシングル・エディットでヴァージョン違いでは無い。元々のミックスは同じだと思われる。イントロが半分になっていたり、二番のサビからインタープレイにかけての部分が端折られていたりという単純な編集も当時のディスコ・ソングのシングル・エディットみたいで楽しい。
ナイル・ロジャーズが楽しそうにギターを弾いている 1’52” のティーザー(予告)はこちら。この映像が先ず公開されて大興奮。
尚、ダウンロードとCDの音はマスタリングが別だろう。しかし、ユーチューブと CD、LPを聴いているけれど、少なくとも僕の耳では特筆出来る程の判別は不可能。好みは矢張り LPだ、というだけ。
○ナイル・ロジャーズは三曲に参加
Give Life Back to Music [tk.1.]
Lose Yourself to Dance [tk.6.]
Get Lucky [tk.8.]
プロデューサーではないがいずれにも共作者として名を連ねている。
bass: Nathan East (三曲共)
バナード・エドワーズ風の間(ま)を空けたフレイズは意図的だろう。アルバムの大半に参加しており、ナイル不参加曲でもそのバナード風という傾向強し(よって悶絶必至)。
drums: John “JR” Robinson (二曲), Omar Hakim (一曲)。
ナイルとジョン・ロビンスンの共演は Steve Winwood ‘Higher Love’ 以来か(記憶のみで書いているので未確認御免)。
○日本盤ボーナス・トラック:
既発表曲や本編収録曲の別ヴァージョンではない新曲だが、ナイル・ロジャーズは不参加。
以上、ナイル・ロジャーズ関連。以下はアルバム全体に関して。
端的に申し上げて、素晴らしいアルバム。
七十五分のアルバムがアッという間に終わるというのはあまり無い経験。それ程に素晴らしい。
全十三曲中、打ち込みは一曲のみ。
そのあくまでも表層的な理由から、これは以前からのファンの間では賛否両論を呼んでいるだろう。「俺の知ってるダフパンじゃねえ!」という声も実際に聞く。一方で人力グルーヴものののファンからの「これは格好良いですね!」という声も僕は多く目(耳)にしている。
基本的な部分、つまりソングライター/プロデューサーとしての彼等二人は変わっていないと思う。最終的な「上着」が違うだけで、楽曲そのものの持つ彼等らしさは通底している。例えばスティーリー・ダン辺りと同じ「スタジオで音楽を仕上げる連中」であって、使っている「音を出すもの」が本作ではマシーンから生身の人間になったというだけの話。僕は歓迎している。
まぁこれは僕がもともと生音グルーヴのファンであるという事、そしてナイル・ロジャーズが参加しているから購入している事からくる「立場の違い」も大きいだろうが。
事実として、彼等の旧作は「気に入っている」「良い曲だと思う」という程度の距離で今まで接している人間だ。
あと、彼等の持つ「先鋭感」と、そういう先鋭的なものを知っている/好いているというリスナーの優越感という尺度でみれば、本作は確かに物足りないのだろう。以前よりも大物感が漂って「しまって」いる、と。渋谷陽一が番組で「ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス」をかけた後に「これ、原題のダンス・ミュージックとしてみた場合、テンポが遅くない?」という旨の発言をしていたが、確かにそうだ。でもこの「遅さ」のせいで、本作は年配のディスコ世代にも受け入れられたのだと思う。丁度、僕等辺りの世代が身体を揺らしたくなるテンポだもんなあ。
そして又もや痛感するのは、「結局は良い『曲』かどうか」だ、という事。これはロック、ポップス、ジャズ、ファンク、歌謡曲、テクノ、ハワイアン、ラテン、クラシック、どんなジャンルでも最終的に行き着く、現時点(この二十数年ずっとだが)での僕の結論。歌唱・演奏の優劣や録音の良し悪し、歌詞に共感するか否かといったものに勝るもの。だって「音楽」なんだもの。歌詞がちゃんとは解らない外国語の曲をひたすら好むのはそういう理由。
彼等は前から曲がとても良い。其処に、彼等は僕好みの服を着せてくれたので、僕に乗っては新作はこれ迄で一番の御気に入りになっているのだ。
参加ミュージシャンが興味深い。大ヴェテランが多い。
g: Paul Jackson Jr. (八曲、ナイル参加の二曲含む)。
b: 殆んどネイサン・イースト。
d: ジョンとオマー半々。
ソウルフルな曲をジョン(白人)に叩かせ、ロックな曲をオマー(黒人)に叩かせるというのが面白い。
発売前後から、雑誌やフリー・ペイパーといった活字媒体を色々とチェックしているのだけれど、何故かポール・ジャクスンJr. やジョン・ロビンスンに関する言及が少ない。特にロビンスンのドラムズは本作の色を決めているとても重要な要素だと思うのだけれど。
参加メンバーが明かされていないうちに執筆していたものなのだろうか。
ディスコだブラコンだという前評判だったが、実際に聴いて思うのは、制作にあたってのキー・ワードは、より具体的に「クインシー・ジョーンズ」だったのではないだろうか、という事。プロデューサー集団、宅録プロジェクトらしいスローガン。
生音でテクノっぽいグルーヴという意味では今世紀に入ってからのニュー・マスタサウンズ辺りと共通した匂い。
十数年前のジャミロクワイっぽい気もする。そう言えばダフト・パンクは今作からソニーに移籍。
日本のレコード会社の売り方がそれっぽいと、そしてリスナー側の盛り上がり方も「ヴァーチュアル・インサニティ」に飛びついた頃っぽい気がしていたのだけれど、やっと繋がった。
八十年前半のブラコン/フュージョンとも通底。裏ジャケのデザインは、これ『スリラー』でしょ?(ジョン・ロビンスン参加は『オフ・ザ・ウォール』だけれど)。
知り合いの一人は表ジャケットのタイトル位置及び字体で『スリラー』だと気付いたという。敵いません。
で、おそらく彼等が最も意識したのは七十年代後半、ディスコ期のクインシーものそしてディスコ・シーン全体。だからプロデューサーではなくギターリスト=ナイルの参加であり、ジョージオ・モーロダーの参加であり、ファレル・ウィリアムズにカーティス・メイフィールド(歌い方が甘くなったディスコ期の)を踏襲させているのだろう。
そして、彼等は同じ時期の(=『スリラー』より前の)、ジョン・ロビンスンを起用したクインシー・ジョーンズ制作アルバム=『Off the Wall /Michael Jackson』『Masterjam /Rufus&Chaka』『Give Me the Night /George Benson』『Light Up the Night /The Brothers Johnson』辺りを、かなり具体的な「教科書」として意識したのではないだろうか。とても豪華なオーケストラがフィーチュアされている作品が四曲有るのも Q氏の流儀だと想像する。これが素晴らしく良い音で感動的だ。
そして繰り返すが、そして何より、良い曲だらけ。
外に貼られているシールに「Feat. GET LUCKY & LOSE YOURSELF TO DANCE」とある。いずれもナイル・ロジャーズ(&ファレル・ウィリアムズ、後者が上記したもろカーティスもの)参加曲なのも嬉しい。
個人的には、僕は本当にプロデューサーでアルバムを聴いているのだな、という再確認もした。その意味でも本作との出会いは大きい。
人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’13. (音楽紹介業)
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