25 11/30 アニータ・ベイカーと出会った十九歳の頃。

Nov. 30th, 2007. イシイ ポップス・イン・ザ・ボックス

vol. 505.

M1
16:05 IS THERE SOMETHING I SHOULD KNOW プリーズ・テル・ミー・ナウ
Duran Duran

M2
16:09 FAITH
George Michael

M3
16:12 LIVING INSIDE MYSELF
Gino Vannelli

M4
16:17 YOUNG TURKS 燃えろ青春
Rod Stewart

ミドル4:アニータ・ベイカー
M5
16:24 SWEET LOVE
M6 日没ソング – 16:28
16:29 CAUGHT UP IN THE RAPTURE
M7
16:34 I APOLOGIZE
M8
16:39 GOOD ENOUGH
Anita Baker

M9
16:47 THE LADY WANTS TO KNOW
Michael Franks

M10
16:52 I’M IN LOVE
The Isley Brothers featuring Ronald Isley

 以前(と言っても多分今世紀に入ってから)、桑田佳祐が自身のラジオ番組で「一番好きなアルバムかも知れない」と話していたのが、アニータ・ベイカーの出世作『ラプチュア』だった。「へぇ」という想いと「成程ね」という想いが同時に湧いたのを憶えている。

 『ラプチュア』が出た時、僕は大学生だった。アパートでの一人暮らしにも慣れた二年生。学内で喋る友人は居たけれど、付き合いは悪い奴だった。八十年代半ばに、七十年代風の長髪(当時流行りのメタルっぽい手入れなんざぁしない)に髭、ラッパのジーンズ。レーナード・スキナードの生き残りみたいな風体だったのだから、そりゃあ誘う気も起こらなかっただろう。学外で学友と行動を共にする事は殆んど無く、食品の調達以外は本屋とレコード屋に通うのみ。で、アパートに帰り一人でひたすらレコードとFMを聴き、本を読む毎日だった。
 絵心の有る奴がクラスの特徴の有る奴を描く、という良くあるイラストの中で、僕は太めのスナフキンみたいに描かれ、吹き出しには「最近何か良い音楽聴いた?」。自分でもウケたものだ。

 当時(’86)でも圧倒的に少数派だった「電話無し・風呂は風呂屋」の学生(テレフォンカード式公衆電話が普及し始めた頃だった)。TVは小さな白黒。藤沢生まれ・横須賀育ちの僕にとって、千葉県柏市は充分に寒く、しかし炬燵や暖房を入れると生活がだらけるので避けていた。エアロスミスが暖房だった(本当に聴くと暖まったのだ。イヤハヤ若い頃の思い込みというものは凄まじい)。かじかむ右手を炊飯器に乗せては、北方謙三や矢作俊彦の著作の頁をめくったものだ。ハードボイルドは痩せ我慢の文学なのだど(内藤陳風)。

 誰にも邪魔されず、自分の予定で、つまり無計画に、思いつくままに動けた。

 ・・・あれ?と此処迄書いてやっと気付く。少し道具は増えたけれど、基本的にはそれから二十年以上、この姿勢は変わっていないのか(笑)。

 まぁそれは兎も角(←少し焦っている)、そんな頃に、輸入盤屋のディスプレイで僕は彼女=アニータ・ベイカーに出会ったのだ。「見た」でも「知った」でも無く、「出会った」という表現が相応しい。そういう、リスナーと「一対一」で相対してくれている様な、暖かみに溢れるアルバム・カヴァーだった。ついでに言っちゃうと、これはCDサイズでは「出会い」にならなかったと思う。

 実は最初、僕はそのアルバム『ラプチュア』を、’70年代初期あたりに出ていた「かくれ名盤」の再発だと勘違いをしていた。都合良く考えれば、そう感じてしまう程に、既に風格をたたえたアルバム・カヴァーだったと言えるかも知れないが、実際の所は、ロバータ・フラックやアン・ピーブルズあたりのアートワークを連想していたという事だろう。
 そして音楽も、これまた再発盤みたいだったのだ(笑)。新譜とは思えない、既に熟成されている様に感じられる演奏と歌が詰まっていた。今回の番組のM5がA1、M6がA3。全八曲、一発で気に入った。

 それから二十年以上。正直な所、彼女の音楽に夢中になった事は無い。新譜を心待ちにして買った事も無い(いつも中古待ちです、ハイ・・・。ゴメンねアニータ)。大好きだと思った事も無いと思う。しかし結構頻繁に自宅でも番組でも聴いている。「八十年代の名盤」として僕が思い浮かべる筆頭ではないけれど、『ラプチュア』は常に十枚以内には入っていると思う。これは「かなり好き」なのだと気付く。

 桑田佳祐の中でも、おそらくナンバー・ワンではなく、常に上位につけている数枚に入る、そんな一枚なのだろう。

 最近では四年前、アリシア・キーズの「イフ・アイ・エイント・ガット・ユー」でこれと似た気持ちになった。彼女は大いに話題となっている新作を出した所だ。クリスマス明けで紹介する事になるだろう。お楽しみに!

 『ラプチュア』A1「スウィート・ラヴ」の冒頭、歌に入る前の時点で既に完全降伏。出来た時には彼女もスタッフも「やった!」と思ったのではないだろうか。
 アルバム・タイトルからして『絶頂』ですものね、考えてみれば。

 ちなみに『ラプチュア』は彼女のセカンド・ソロ。その十年前、’76年からチャプター8のヴォーカリストとしてプロ活動をしている人です。

人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’07.

人見 欣幸

音楽紹介業(ラジオ、活字、ライヴハウス、インタネット等で音楽を紹介)
1967年神奈川生まれ・育ち・在住
1978年より洋楽中心生活者
1991 文筆デビュー
1995 ナイル・ロジャーズにファンレターを渡す(交流開始)
1997 レギュラーラジオ番組開始
2011 Nile Rodgers/CHIC応援組織 "Good Times" を内海初寧と結成、同年よりウェブ番組 "Good Times TV" 開始(13年まで)
2019 新メンバーを加え、六月より "Good Times Tube" としてウェブ番組を復活

■favorite musicians:
Nile Rodgers,Bernard Edwars&Tony Thompson
山下達郎,伊藤広規,青山純&難波弘之
竹中尚人,加部正義&ジョニー吉長

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コメント

  1. Taro より:

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    いや、寒かった。柏(爆)。
    一度遊びに行ったね。換気扇も無くてさー。秋刀魚焼いたら、部屋中ケムリ(笑)。懐かしいな。
    最近、留守録ソフトが調子良くて、毎番組毎回聴けてます。
    昨日の朝の通勤で聴いた(日没ソングでなく、日の出ソングになっちゃった)けど、Anita Baker ね!俺も、つい最近デジタル化して、良く聴いてたとこだったんだ。
    確かに、当時、既にすごい風格だったよね。音も当時の流行と逆行してチャラチャラしてなくて、凄く良かった。
    車の免許をとったばかりのころ。軽自動車のカーステのカセットにAnitaはよく入ってたな。ドライブにも気持ちいい音楽。
    俺はベースに転向したばっかりの頃だったから、このベースもすごく印象に残ってる。SweetLove,歌に入る前の流れるようなベースライン。かっくいい〜〜! Like

  2. Taro より:

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    最近も音楽やってるって聴いて、調べてみたら、
    2004年に"My Everything"ってアルバムが出てるんだね。これが最新かな?試聴したけど、ますます渋みの入ったいい声になって。
    これも買いだな。
    最近、HitMeのせいで小遣いが足りないな(笑) Like

  3. hitmejapan より:

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    Taro
     「(爆)」とは。現代人じゃのぉ、君も。柏には、海から遠い地らしい、きつい風が吹いていたんだよね。雪積もったしな、結構。
     「デジタル化して」という事はつまり、CD買わずにLPをコンピュータに取り込んだのだな? 結構その方が音がグッと来る気もする。特にベイスなんかね。スクラッチ・ノイズの中にロックやソウルは宿るのか?
     『マイ・エヴリシング』は当時かなり話題になったし内容もかなり良いんだけど、如何せんCCCDなんだよ、外盤も。ほら、EMIが『・・・ネイキッド』もジョン・レノンもCCCDで出した時期が有ったじゃない? その頃でさ。LPも出なかったみたいで(『ネイキッド』は出た)。だからまだ僕も買っていない。局では買ったから(そりゃあ勿論、湘南ビーチFMの為に彼女が特別に作ってくれたみたいな音楽ですから[笑])聴いたけど。プライヴェイトで育児だ看病だと色々あった後の復帰作。それを感じさせない、いつもの彼女だったのが嬉しかったのでした。
     小遣い、足りないでしょ。ざまぁみろ!
     僕もゼップさえまだ買ってない・・・。
    人見 Like

  4. GAKU より:

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    『ラプチュア』
    今出ている「ローリングストーン」誌日本版12月号は80年代特集。
    その中の「80年代アルバムベスト100」で、36位に入っていました。

    順位は主観なので、誰もが納得するものではないと思いますが、
    ベスト5は以下でした。
    ①クラッシュ/ロンドン・コーリング
    ②プリンス/パープルレイン
    ③U2/ヨシュア・トゥリー
    ④トーキング・ヘッズ/リメイン・イン・ライト
    ⑤ポール・サイモン/グレイスランド

    Like

  5. 獅子丸 より:

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    日曜の「ザ・シンガーズ・アンリミテッド」もよかったですね。
    ALEXANDER O'NEAL、なつかしい。
    そう言えば、「HEARSAY(1987)」と「ALL TRUE MAN(1991)」は持っていました。この間に「MY GIFT TO YOU(1988)」なんですね。これ以降の作品もあって、人見さんの番組聞いてると欲しくなるCDばかりです。 (笑) Like

  6. hit2japan より:

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     僕の主観では、
    Nightwalker / Gino Vannelli
    Real People / Chic
    For Those about to Rock We Salute You / AC/DC
    Street Songs / Rick James
    Sign 'o' the Times / Prince
    Rapture / Anita Baker
    High Priority / Cherrelle
    Pack Up the Plantation-Live!
    / Tom Petty and the Heartbreakers
    The Joshua Tree / U2
    Let Love Rule / Lenny Kravitz
     なんて辺りが、今パッと思いつく八十年代の名盤ですかねぇ。明日にはまた変わるだろうし追加されるという程度の重要度で御笑覧下さい。
    人見 Like

  7. hit2japan より:

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    獅子丸さん
     嗚呼、僕の「イシイ ポップス・イン・ザ・ボックス」最新分の更新が間に合わなかったのですね・・・。失礼。それでもコメントを寄せて頂き、有難う御座居ます。
     ザ・シンガーズ・アンリミテッド、どれを聴いても良いのですが、『クリスマス』がアルバムとしての完成度からいくとベストという気がします。『ア・カペラ』のシリーズも良いですけど。
     アレックスは、デビュー作「Alexander O'Neal」もとっても良いですよ。同時期にタブー・レコーズから出された、アレックス同様、いずれもジャム&ルーイスが手掛けたシュレールの三枚、ジ・S.O.S. バンドの諸作も素晴らしいのひと言です。ザ・タイムのセカンドも含め、八十年代のジャム&ルーイスはどれも本当に素晴らしい。
     又、アレックスはライヴでの歌唱力が本当に素晴らしい。本当にライヴ・シーンで鍛えられた人なのだと感心しました。初来日当時「アレクサンダー大王」と書かれたその巨体も凄かったのですが。ジャケ写、あれでもかなり嘘です(笑)。
    人見 Like

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