64 8/2 人見っぽくないと思われてしまいそうですが。

Aug. 2nd, 2008.
人見欣幸の音楽三昧

featuring 祝・安室奈美恵、女王再臨。
When Pop Hits the Fan /Suite Chic, ’03.

彼女の『グレイテスト・ヒッツ』発売の週になったのは偶然です(本当)。

01 Hits the Fan
02 What’s on Your Mind feat. XBS
03 Good Life feat. Firstklas
04 Baby Be Mine
05 We Got Time
06 Without Me
07 Segway
08 Damn Fight
09 Not This Time
10 What If feat. Verbal (M-Flo)
11 “Uh Uh . . . . . .” feat. AI
12 Sing My Life feat. Dabo
13 Ain’t Yours
14 Segway

&
Singns of Life
Just Say So feat. Verbal (M-Flo)
Sweet and Chic

 このアルバムは発売された頃から気に入っていた。
 番組でのオン・エア候補企画にも、結構前からなっていた。
 しかし、他の特集を、つまり
  追悼や、
  新譜や、
  来日決定等の、時事ネタ(物故者には申し訳ない表現だが)
を優先しているうちに数年が経過してしまっていた。

 もう少しで「永遠の候補」「ずっとスペア」になってしまう所だった。
 それはマズい、と、ここ数ヶ月は「近々オン・エアすべき企画」入りさせてあった。
 僕としては「やっと実行に移せた特集」として感慨深く今回の番組を御送りした。
 アルバム一枚きりなので、順番に途中迄オン・エアしたというだけなのだけれど。

 スーパーモンキーズ、安室奈美恵・ウィズ・スーパーモンキーズを経てソロ名義(グローリア・エステファンみたい!)で活動を始めた頃の彼女。

 当時、僕の友人達(僕も含めて)の間では
「安室奈美恵は勿体無い」
という声が多かった。

 はっきり言えば
「もっと良い曲を歌わせてあげたい」
「曲・スタッフに恵まれていない」
という事だ。

 僕はいわゆるコムロ系が苦手だった(※)ので全く同感だった。
 TVでの醒めきった言動と、求道的にさえ見える歌と踊りを目にする(正直に言えば意識的に「観ていた」訳では無かった)度に、僕も、その「楽曲の『ついてこられなさ具合』」を可哀想に思っていた。

 私生活面での良い事悪い事の一つ一つが、当然の如く茶の間の話題となる。日本人の殆んどに知られる状態のまま、彼女は人生の半分以上を、大人になってからの全てを「ザ・芸能人」として生きている。そのストレスは勿論想像出来ない。
 覚悟して引き受けてはいるのだろうけれど、それにしても、熱心なファンではない僕でさえも知る、若くしてあまりにも波瀾万丈な十数年は、日本全国に数多くの「似非親戚」「似非御近所」を生んでいる筈だ。
 まぁ、僕もそんな「遠縁の似非御近所の一人」になってしまっているのかも知れないけれど。

 しかし彼女はそんなプレッシャーに潰されなかった。心から拍手を贈る。

 ダラス・オースティンと仕事をした時には驚いた。只、同時に僕は「あと数年早けば、ジャム&ルーイスと仕事を出来ただろうに」とも思った。前からそうなったら面白いだろうなぁと友人達と話していた。
 初期の彼女はかなりおもむろな「ジャネット・ジャクスン(ジャクソン)ぶり」を披露しており、現在に至る迄、ジャネットへの憧れを隠していない。
 実現していたら、勿論宇多田ヒカルよりも早かったし、クリスタル・ケイよりもずっと本格的だっただろう(二人共好きだけどね)。

 九十年代半ばに、ジミー・ジャム&テリー・ルーイスが安室奈美恵(十代)のプロデュースを手掛ける。
 ジャネット・ジャクスンで言えば『ジャネット』『ザ・ヴェルヴェット・ロープ』辺りの音の感じで歌う安室奈美恵。

 実現していればなぁと、今でも勿体無く思う。

 彼女に続いて、いわゆるディーヴァと言われる女性シンガーが多く登場(※2)、安室奈美恵の天下とは言えなくなったが、彼女は落ちる事無く、常に「二番手」的な位置で踏ん張り続けた。その持続力を支える情熱と底力、つまり実力は凄いと思う(スタッフも含めて)。
 「基本的に歌手としての実力が違うからね。消えないと思うな。」
 消えないでくれという願いも込めて、密かに応援していた。「密かに」で申し訳無いけれど(笑)。

 そうこうしているうちに、「一番手」であった後進の面々が、その座から次々と降りていった。その理由は失言(過剰反応だと思うけれど)や、体調不良や、謂れの無い醜聞や、単なる「落ち目」等と、それぞれの理由は異なるけれど。
 でも、結局は「自分はいち音楽家である」という立ち位置を優先していなかった、
つまり、
 様々な事情から実力以上の存在に祭り上げられてしまっていた
という事なのだと思う。

 先程、彼女は「常に二番手で居続けた」と書いたが、とは言え一番を虎視眈々と狙い続けていたともあまり思えない。やるべき事、次に自分が創り出すべき「音楽」をストイックに模索し続けていて、偶然そういう位置に居続けたという事なのだと思う。

 なので、「そして当然の様に実力者が残ったというだけの事」という印象を僕は持っている。

 半ば自動的・必然的に、安室奈美恵は再び女王の座に返り咲いた。
 歓迎すべき事態だ。

 そんな彼女の歌唱力と志と音楽が初めて同レヴェルになったのが、五年前のスイート・シークだと僕は思っている。
 彼女は流石に其処迄ハッキリとは語らないけれど、迷いを吹っ切る大きな切っ掛けではあった様だ。

 関わったソングライター/トラックメイカー陣も「素材」としての彼女を使って大いに楽しんでいるのが伝わって来る。僕と同様に「(以前の彼女を)勿体無い」と思っていたのではないだろうか。「こういうのを歌えばもっと良いのに」と。
 そして彼女自身も自己対象化を試みたのだろう。八十年代の小泉今日子、七十年代の山口百恵、ソロ以降現在迄の澤田研二の様に、この時、スタッフ(プロデューサー)としての視点も彼女は獲得したのだろう。

 ・・・等と、偉そうに書き連ねてしまったけれど、実は僕が買って聴いている彼女の作品はこれだけだ。
 この作品の前も、そしてこれ以降現在に至る迄も、彼女を聴く機会は、TVから聞こえてくる時という程度なのだが、そうして耳に入ってくる彼女の音楽は、「あ、今回はスイート・シークでやったアレの発展型だな」「今度はコレだな」という風に思う事が多い。
 (以降を「進歩無し」と否定している訳では無いので誤解の無き様。)
 それ程、スイート・シークは彼女にとって大きな転換点だったというのを強調したいのだ。

 これを書いている今も、TV
から新譜(グレイテスト・ヒッツ盤)のCMが聞こえてきた。現在大ヒット中だという。
 そしてきっと今日も、彼女が出演している化粧品のCMを目にするだろう。

 変にヴァラエティ番組映えしたり、トークが上手くならないのも、いち音楽ファンとしては何だか嬉しい。TVタレント化せず、「歌手」としてブレずにいられる理由だとも思うから。

 今後の更なる活躍を信じて。

 マズい、僕もどうやら御近所どころか「似非叔父さん」と化している様だ。敵の戦略にまんまと引っ掛かってしまったか(笑)。

人見 ‘Hit Me!’ 欣幸, ’08. (音楽紹介業)

(※)ナイル・ロジャーズ、バナード・エドワーズがリアレインジ(リプロデュース)で関わっているTMネットワークのシングルとアルバム、それから小室哲哉がプロデューサーとして関わった円谷憂子(デビュー時の「優子」から改名していた。円谷一の姪、即ち円谷英二の孫)は持っているが・・・。

(※2)「ディーヴァ」のムーヴメントに就いて敢えて乱暴に書くと、
「『歳をとってもディナーショウでやっていける方がた』としか思えない」
「MIMI (宮本典子) のメイジャー・シーン復帰が功罪の『功』だというぐらい」
というのが僕の印象。
 個々に「良いな」と思う曲は有るが、ムーヴメントとしては好きではないし、「和製 R&B」「ディーヴァ」という言葉が使われているのも嫌だ。太い声で朗々と唄うだけで、第一ファンクのファの字もその歌声からは感じられない。
 それこそ歌唱力も存在感も志も「ディーヴァ」なのは安室奈美恵ぐらいだろう。
 ソウルフルなシンガー=ソングライター/コンポーザーとして宇多田ヒカルは好きだけど。アルバムも持ってるし。

人見 欣幸

音楽紹介業(ラジオ、活字、ライヴハウス、インタネット等で音楽を紹介)
1967年神奈川生まれ・育ち・在住
1978年より洋楽中心生活者
1991 文筆デビュー
1995 ナイル・ロジャーズにファンレターを渡す(交流開始)
1997 レギュラーラジオ番組開始
2011 Nile Rodgers/CHIC応援組織 "Good Times" を内海初寧と結成、同年よりウェブ番組 "Good Times TV" 開始(13年まで)
2019 新メンバーを加え、六月より "Good Times Tube" としてウェブ番組を復活

■favorite musicians:
Nile Rodgers,Bernard Edwars&Tony Thompson
山下達郎,伊藤広規,青山純&難波弘之
竹中尚人,加部正義&ジョニー吉長

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